近年の自動車は高度な電子制御化が進んでおり、「スキャンツールを繋いでもエラーコードが出ないのに不調が直らない」といった難解なトラブルが増加しています。
本記事では、診断機だけでは見抜けないトラブルを解決に導くオシロスコープの重要性と、自社の整備環境に合わせたモデルの選び方を解説します。
サーキットテスターは平均的な電圧を表示するため、断線チェックには有効ですが、ミリ秒単位のノイズや一瞬の電圧ドロップは捉えきれません。また、スキャンツールはトラブルの方向性を絞り込むのに必須ですが、表示されるのはあくまでECUが認識した結果です。センサーが発している実際の物理的な電気信号の乱れや、通信の一瞬の途絶までは可視化できないのが実情です。
そこで必要になるのが、オシロスコープによる波形測定です。ECUのデータに頼るだけでなく、O2センサーやイグニッションコイル、CAN通信などの信号を直接時間軸の波形で確認することで、機械的トラブルなのか電気的ノイズなのかを切り分ける裏付け診断が可能になります。
これにより、勘に頼った不要な部品交換を防ぎ、的確でロジカルな修理へと繋がります。
自動車整備においては、複数の信号を同時に測定・比較する場面が多々あります。例えば、クランク角センサーとカム角センサーのタイミング(同期ズレ)の確認や、CAN通信におけるCAN-HighとCAN-Lowの波形比較などです。
そのため、自動車用オシロスコープを選ぶ際は、最低でも2チャンネル(2ch)を備えたモデルが必要です。より高度な診断や、インジェクター波形と各センサー信号を同時に確認するような複雑なトラブルシューティングを行う場合には、4チャンネル(4ch)のモデルを選ぶことで、作業効率と診断の確実性が向上します。
周波数帯域とは、入力信号に含まれる周波数成分をどこまで正確に測定できるかを示す数値です。自動車のセンサー信号やCAN通信(通信速度500kbps〜1Mbps程度)、さらには近年の先進装備に採用されるより高速なCAN FD通信を測定する場合でも、一般的には20MHz〜50MHz程度の周波数帯域があれば十分に対応可能です。
また、1秒間に波形を取り込む回数を示すサンプリングレートも重要ですが、自動車整備においては数MS/s〜数百MS/s(メガサンプル/秒)あればほとんどの用途をカバーできます。電子機器開発で使われるような数百MHz〜GHz帯のハイスペックモデルは、自動車整備においてはオーバースペックとなり価格も高騰するため注意が必要です。
オシロスコープをスムーズに活用するためには、自動車専用のプリセット機能が搭載されているかが重要なポイントになります。
汎用的なオシロスコープの場合、測定対象に合わせて電圧軸や時間軸、トリガーレベルを都度手動で設定しなければならず、現場では手間がかかります。自動車専用モデルであれば、「O2センサー」「イグニッションコイル」「CAN通信」などのメニューを選ぶだけで自動的に適切な設定が行われます。さらに、良否判定の基準となる正常な波形データが内蔵されているモデルを選ぶと、診断のスピードが向上します。
オシロスコープ本体の性能だけでなく、自動車特有の部品を測定するためのプローブ(探触子)やアタッチメントが充実しているかも重要です。例えば、数万ボルトに達する点火コイルの二次側電圧波形を安全に測定するためのイグニッションプローブや、配線を切断せずにインジェクター等の消費電流を測定できる電流クランプ、防水コネクタの隙間から信号を拾うバックプローブピンなどがあります。
これらが標準付属、またはオプションで豊富に用意されているメーカーの製品を選ぶことで、実際の整備現場での対応力が変わります。
ハンディ型は、バッテリーを内蔵した小型軽量なオシロスコープ。工場内での持ち運びが容易で、車内やエンジンルームの奥まった場所など、電源が確保しにくい環境でも手軽に使用できる点が特徴です。
マルチメーター機能が一体化したモデルも多く、現場でのちょっとした測定に重宝します。一方で、画面サイズが比較的小さいため、複雑な波形の細部を確認したり、複数の波形を重ねて比較したりする作業にはやや不向きです。手軽さと機動力を重視する方におすすめのタイプです。
PC接続型は、本体にディスプレイを持たず、ノートパソコンなどにUSB接続して使用するタイプのオシロスコープ。自動車整備向けに、専用ソフトウェアや波形ライブラリが充実している製品が多くあります。
パソコンの大画面を利用できるため、微細な波形の乱れを拡大して観察したり、過去の波形データと比較したりする作業に非常に適しています。また、測定した波形データをそのままPCに保存し、顧客への説明用レポートや整備記録として活用しやすいことも利点です。
ただし、作業のたびにパソコンを車両のそばへ持ち込み、起動・接続する手間がかかる点には留意が必要です。
据え置き型は、作業台や専用のワゴンに置いて使用するタイプのオシロスコープ。主にAC電源で駆動し、大型ディスプレイと豊富な物理ボタンを備えているのが特徴です。汎用の電子計測器として広く普及しているため、同等のスペックであれば他のタイプよりも価格が抑えられており、コストパフォーマンスに優れています。操作性も高く、腰を据えて詳細な波形解析を行う作業などに適しているタイプです。
しかし、サイズが大きく電源コードが必要なため、車両内への持ち込みといった取り回しの良さではハンディ型に劣ります。
自動車の高度化に伴い、スキャンツールだけでは特定できないトラブルを解決するため、オシロスコープの重要性は日々高まっています。導入にあたっては、「2ch以上のチャンネル数」「20MHz〜50MHz程度の周波数帯域」といった基本スペックを押さえた上で、「自動車専用プリセット機能」や「専用プローブの充実度」を確認しましょう。
作業環境に合わせて「ハンディ型」「PC接続型」「据え置き型」のいずれが自社のワークフローに合致するかを検討し、適切な一台を選定してください。
オシロスコープは、測定したい信号の周波数帯域によって選ぶべき製品が異なります。メーカーごとに取り扱う製品の強みや、対応している周波数帯域も様々です。
当メディアでは、周波数帯域別におすすめのオシロスコープメーカー3社を紹介しています。自社の用途に合わせたオシロスコープメーカー選びに、ぜひご活用ください。
周波数帯域別におすすめのオシロスコープメーカー3社を紹介します。


| 周波数帯域 | 200MHz |
|---|---|
| サンプルレート | 1GSa/s |
| チャネル数 | 2 |

| 周波数帯域 | 350MHz/500MHz |
|---|---|
| サンプルレート | 2.5GS/s |
| チャネル数 | 最大16(2台連結) |

| 周波数帯域 | 100GHz |
|---|---|
| サンプルレート | 256GSa/s |
| チャネル数 | 4 |